緩和ケアを行うために入院をされていた患者さんに、初めてリハビリを行った時の話です。
本来、患者さんは退院を目的にリハビリを実施します。
退院の場所は必ずしもご自宅ではなく、施設や転院などその方によって違います。
ですが、緩和ケアで入院をされている方は別です。
ご自宅では緩和ケアを受けられない方、ご自宅で緩和ケアを行っていたが、より高度な医療が必要になり入院を余儀なくされた方達です。
中には、大きな病院のPCUに入院するまでのレスパイトとして入院されている方もいますが、目的はただ一つ緩和です。
これから、どんどん状況が悪くなっていくのを覚悟されている方達です。
失われた機能を回復するため、失われた能力を獲得するため、今の自分より良くなるためにみなさんリハビリに励みます。
そして、私たちはそのためにサポートをします。
そういう仕事をしてきた私に何ができるのか。
その答えを教えてくれたのもやはり患者さんでした。
その方は小腸の癌で手術をし、その後緩和ケア目的で入院されてきたご高齢の方です。
その方のリハビリの希望は、「また歩きたい」ということでした。
その目的のために、私はその方とリハビリをはじめました。
リハビリはいつもベッドサイド(個室の病室)で行い、リラクゼーションをしながら、色々な話をしました。
ですが、ベッドから離れるのはいつも車椅子で買い物に行くことだけで、運動などのリハビリはされませんでした。
買い物をすることがリハビリ?と思う方もいるかと思います。
それでも、私はその方がしたい事、できる事をすることがその方にとって一番良いことならそれで十分だと思っていました。(恩人~私を育ててくれた患者さん①)
3週間ほどそのようなリハビリを繰り返していましたが、いつもお部屋に伺うと座ってテレビを観ていた患者さんでしたが、徐々に訪室すると横になっていることが増えてきました。
痛みが強くなってきたため、内服(医療用麻薬)が増え、だんだん状態が不安定になってきていたのです。
それでもその方は「私がリハビリにきました」と部屋を訪れると、痛みが強くても私が来るのを待っていてくれました。
さらに、状態が悪くなってきたので、私はその方に提案をしました。
「もし痛みで身体がつらいようでしたら、リハビリを止めてもいいんですよ」と
ですが、その方は私に言いました。
「痛みが強くて辛くても良いんです。あなたに来てもらいたいんです」と
その時初めてその方の気持ちを知ることができました。
そのままその方は話を続けられました。
「いつも看護師さんは痛みがあると呼べば来てくれます」
「ですが、いつも痛みのことを伝えると痛みは何点ですかと聞くだけです」
「さっき薬を飲んだので今はまだ飲めませんよ」と言うだけです。
「忙しいのは解りますが、ただ用事を済ませるだけです」
「誰も話を聞いてくれる人、ゆっくり話をしてくれる人はいません」
「手術をするとき、先生はいいました」
「手術をすれば楽になりますから手術をしましょう」
「結果は見ての通り、手術をしてから楽になる所かますます辛くなるばかりです」
「これなら手術をしない方が良かった」と涙ながらに心のうちを話してくれました。
「あなただけです」
「こうして私の話をゆっくり聞いてくれるのは」
「痛みがあっても何点ですかと聞かないのは」
「話をすることで私の気持ちはゆるみ、痛みもゆるみます」
「だから来て欲しいんです」
「むしろ待っているんです」
そういってその方は亡くなる前日まで私のリハビリを続けてくれました。
初めのうち、私のしていることは本当に正しいのか迷っていました。
他の理学療法士なら何ができるのか、他の理学療法士ならもっと患者さんの目的のためになることができるのではないか、自問自答していました。
ですが、その話を伺うことができて、私は今まで自分がしてきたリハビリがその方にとって無駄ではなかったと知ることができ、本当に救われた気持ちになりました。
緩和ケアでできるリハビリは何なのか、正解はないのだと思います。
大きな病院のPCUに行けば、まずリハビリはないかと思います。
私は大きな病院のPCUの事を詳しくは知りません。
ですから、そこで行われる緩和ケアとはどんなことなのか知りません。
家族が病室で宿泊できるという理由もあります。
「大きい病院なら」と何かの希望をもってPCUの空きを待っている方もいます。
ただ一つ言えることは、患者さんは孤独なんだと思います。
どんなに周りに親しくしてくれる人、やさしくしてくれる人がいても、一人で病気に向き合わなければいけないのです。
一人でおかれている状況を受け入れなければいけないのです。
そのことは忘れてはいけないのだと思います。
健康でも結局人は一人なんです。
病気になれば、辛い状況になればばるほどどうしようもなく孤独を感じるのです。
むしろ初めて孤独を感じるのかもしれません。
もし癌を患われている方、ご家族に癌を患っている方がいる方、緩和ケアに関わっている方など、この話を読んで頂いた方達に、少しでも癌の治療や緩和ケアについて考える手助けになって頂ければ幸いです。
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