この間、腰が痛くなったからと辛い表情をされながらクリニックを受診し、リハビリを受けることになった患者さん(60代男性)がいました。
触診とあわせてマッサージをはじめると背部や腰部だけではなく腹部までパンパンに張っていて、風船のように膨れ上がっていました。
マッサージをしながら体の状態を伝えよくよく話してみると、患者さんがこう言いました。
「プランクって知っていますか」と。
もちろんプランクのことは知っていますので、「知っていますよ」、「流行っていますもんね」と伝えました。
すると「今まで腰が痛いなんてことなかったんですけど、実は数か月前からプランクをはじめ、毎日のようにやっていたんです」と言いました。
「やりすぎたんですかね」と聞かれたので、「はい」、「やめた方がいいですね」と伝えました。
体幹トレーニングということが流行りだし、有名人や著名なスポーツ選手などが取り入れ、それをすることで「スタイルを維持している」、「スポーツのパフォーマンスが向上した」などと発信し本を発行、さらに本の売り上げを上げるために宣伝しどんどん体幹の重要性とりわけプランクという運動を世間に広めていくことになりました。
インナーマッスルという言葉もその一つです。
確かに体幹の重要性というものは認識していますが、それはあくまで1トレーニングの一つであり、スポーツ選手はそれだけをやってパフォーマンスを維持し向上させているわけではありません。
スタイルを維持するのも同じです。
つまりそれだけで良いということではありません。
しかし、流行っているからとそれに便乗するため、「プランクが運動のなかで一番おすすめです」、「これだけやっておけば大丈夫」とyoutubeで動画をアップするなどSNSを利用して発信し商業価値をたかめ、それがヨガやピラティスなどへと波及していきました。
プランクを進める方の理由は、
- 負荷が少ないため安全です
- 負荷が少ないため、運動継続が容易です
- スペースや道具がいらないので自宅でも簡単にできます
- 体幹を効率よくトレーニングできます
- トレーニング効果も一番優れています
などです。
そして、運動療法のプロでなくてはならない理学療法士ですら、腰痛のリハビリで一番重要と患者さんにプランクだけをさせる、由々しき事態が起きています。
スクワットも同じです。スクワットはした方がいいですか。
筋力トレーニングを行う時、考えることとして、筋肉の収縮様式というものがあります。
プランクは筋肉の収縮様式の中で、等尺性収縮という様式にあたります。
等尺性収縮の利点は収縮様式のなかで一番筋肥大の効果が期待できることです。
筋力というのは筋の断面積に比例しています。
つまり筋が肥大すれば当然断面積が増え、筋力がつくというものです。
これだけ聞くといいことばかりじゃんと思うかもしれません。
ですが、筋力がつくということはどういうことか言うと、筋力は筋繊維が破壊されそれが修復することでつきます。
つまり、筋繊維が破壊されればされるほど修復する力が必要であり、破壊されれば破壊されるほど筋力がつくという仕組みです。
ですから、等尺性収縮運動というのは筋肥大をすることに一番効果的だけれども、その分筋繊維が破壊されているということになります。
つまり、実はリスクが潜んでいるということです。
ですから、それを理解している理学療法士であれば、リハビリテーションとりわけ、腰痛などの脊柱に器質的変化をともなっているであろう高齢者のリハビリテーションには十分注意をして行う必要があります。
腰痛を呈する方にプランクばかりをすすめる理学療法士はあやしいと思った方が良いかもしれません。
プランクはすべて悪いと言っているわけではありません。
昔から、四つ這いトレーニングといって、失調症状や脳卒中の片麻痺を呈した方などの体幹機能が低下した方にリハビリテーションとして行っていました。
ただし、あくまでリハビリテーションを構成する要素の一つであり、そればかりをリハビリテーションで行うことはありません。
プランク運動をすすめる方も言っています。
「くれぐれもやり方に注意して下さい」と。
正しいやり方を守り、その方にあった方法で運動をすれば、スクワット同様良い運動だと思います。
そして運動とはただそれだけをやれば良いというもではありません。
筋肉をきちんと収縮させて血液の循環を促すことも重要です。
収縮と伸張を繰り返していくことで柔軟性が維持できます。
重いおもりを使って筋力をつけることも大切です。
様々な運動様式を取り入れて運動をすること、リハビリを行うことが一番良い方法です。
ちなみに先ほどの患者さんはプランク運動をやめ、私のリハビリテーションを一度受けただけで腰痛は改善されました。
まだリハビリをしたいということで来られていますが、状態はかなり良くなっています。
来院してから20分1単位で4回ほどリハビリをし、およそ1ヶ月経過していますが、「プランクはしていますか」と聞くとまだしていないそうです。
リハビリに来ている間にまた初めてみて下さい、身体の状態をチェックしますからと伝えています。
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