私の理学療法士としての知識は、ほぼ学生時代に築いたものです。
私の仲間には、色々な講習会に出席したり、理学療法士協会の行う卒後教育を履修したり、介護の分野の資格をとったり、卒業してからも勉強をして自己研鑽を重ねている人もいます。
中には大学院へ進んで、学士の資格を取るために勉強と仕事の両立を図っている人もいます。
ですが、私はというと、ただ日々患者さんに真摯に向き合うことをしています。
患者さんとのリハビリの中で、私はたくさんのことを学ぶことができました。
そんな、患者さんに向き合ってきた中で、私を育ててくれた特別な患者さんが3人います。
その方達について、3回に分けて紹介したいと思います。
一人目の私を育ててくれた患者さんは、理学療法士として一番初めに担当させて頂いた患者さんです。
その患者さんの経緯を先に簡単にお話しします。
患者さんは、転倒し股関節を骨折、その後手術を行いました。
ですが、手術の結果が思わしくなく、骨折部の固定がかなり不安定でした。
正直、一年目が担当するようなケースではないと思いました。
骨折部が不安定なので下肢に荷重をかけることは禁忌、年齢的なものもあり、片足で立位を取るなど容易ではありませんでした。
そのため、骨折部を固定していたピンが少しずつズレてきました。
再手術をするかしないか医師の間でも迷っていました。
手術をしたのは研修医の先生で、もともと内科の研修医で整形のオペ経験はありませんでした。
そした再手術をするということは、最初の手術は失敗ということになるからです。
その間、私は先輩方にどうしたら良いか意見を求めていたのですが、誰一人としてアドバイスをくれる人はいませんでした。
「もっと上の人に聞いて」、「きちんと評価したの」と質問を投げかけてくるばかりです。
患者さんを良くするために今すぐ何かをしなくてはいけないと私は焦っていたので、今すぐしないといけない具体的な答えが欲しかったのです。
今思えば誰も明確に答えを教えられる人はいませんでした。
急性期の病院というのはそんな病院です。
大変な患者さんは、リハビリ病院へとにかく転院して貰えばいいのですから。
そして、いよいよ再手術をしなくてはいけないとなったとき、私は「きっと患者さんが下肢に荷重をかけているのではないか」と疑ってしまいました。
本当に恥ずかしいことです。
自分に責任があるのに、上手くいかない焦りからか、よりによってその責任を患者さんのせいにしようとしたのですから。
そして、トイレに行った患者さんが足をついているのを目にしたとき、「やっぱり守れていなかったんだ」と確信し、医師や先輩の理学療法士に報告をしました。
そして、医師が患者さんに何で足をついたのか伺うと患者さんは言いました。
「ついてはいけないのは解っている」
「担当してくれている理学療法士の先生にも常に言われている」
「つくことで悪くなることもわかっている」
「だけど足を浮かせたくても浮かせられないんだ」
「車椅子のフットレストに足をのせるのも手で持ち上げないとできないんだ」
「力が入らないから、したくてもできないんだよ」と。
それを聞いた時、私は初めて冷静になりました。
患者さんが言う事は当たり前で、できるわけがないんです。
筋肉は固定されている骨についているから、骨を動かし正しい動作ができます。
手術で固定がきちんとされていないのに、骨が自分の思うように動くことができるわけがないのです。
私は、できない事を患者さんにひたすら強いていたのです。
そして患者さんの責任にしたのです。
本当は理学療法士が一番患者さんができない理由を理解していないといけないのに。
その患者さんは、結局私にとって一番最初で最後の失敗をした患者さんになりました。
その後、患者さんは再手術したのをきっかけに、同期で入職した10年目の理学療法士に担当を変わってもらい、無事に自宅へ退院することになりました。
私は、他の患者さんの合間をぬってその患者さんのリハビリを一緒に診させて頂き、退院する時は、こんな私にすら感謝をしてくれたことに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
プロフィールでもお話していますが、「患者さんは理学療法士を選べない」というのはその方から学ばせて頂いたことです。
そして、それからは「患者さんにできない事は絶対にさせない」、「できる事だけをさせて患者さんを良くする」、「そのために患者さんに何ができるか考え、真摯に患者さんに向き合う」という今の私の理学療法士としてのスタイルを築いて頂くことができました。
その患者さんがいなければ、今の私はなかったかもしれません。
本当に感謝しております。
そして私のこの経験が、誰かの何かのお役に立てれば幸いです。
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