「整骨院とは何が違うんですか?」
「整骨院でリハビリをしていました」
整形外科で外来リハビリテーションをしていると、よくこの言葉を耳にします。
整形外科のリハビリテーションと整骨院では何が違うのでしょうか?
リハビリテーションという言葉は実は整形外科にあてはまる概念で、整骨院で行うものは治療という概念が基本です。
今では、リハビリテーションという言葉が一般的になり、整骨院で行う治療もリハビリテーションという枠組みで捉えられているようです。
ですが、実際には整骨院で行う治療は、私の目でみればリハビリテーションではありません。
整骨院で働いている柔道整復師の方達が、訪問リハビリと表してリハビリテーションの分野に裾野を広げているため、リハビリテーションという概念が混同されているように感じます。
そこで、整形外科で行うリハビリテーションについて少し話をします。
整形外科のリハビリテーションには厚生労働省から決められたルールがあります。
理学療法士が行うリハビリテーションは、厚生労働省に1単位20分という枠組みで保険請求をします。
皆さんが病院窓口でお支払いする自己負担分以外に、国が病院へ支払ってくれる代金です。
ですから、15分や30分という時間間隔では行いません。
20分、40分、60分という時間間隔でリハビリテーションを行います。
そのため、理学療法士が行うリハビリテーションは、一日に行える人数に限りがあります。
整骨院にはそれがありません。
たとえ治療時間が10分だろうと代金が支払われます。
そのため、整骨院で行う治療時間は整骨院単位で違います。
一人の患者さんに時間を掛け過ぎれば一日に治療できる患者さんの数が減りますが、時間を少なくすればより多くの患者さんを治療することができます。
また、整骨院には治療のための期限がありません。
ですが、整形外科で行うリハビリテーションには期限があります。
整形外科疾患で行うリハビリテーションには保険請求できる期限が厚生労働省から決められています。
厚生労働省からすれば、5カ月で治らないものはもう治らないということになります。
ただ、お役所仕事というのは、きっちりしているようであいまいな部分もあるため、あくまで医師の診断に基づいてリハビリテーションを継続することは可能です。
始めに、整骨院で行うものは、リハビリテーションではなく治療という概念である事を書きましたが、どうしてなのか。
整形外科で行うリハビリテーションには、消炎鎮痛というものと運動療法という枠組みがあります。
先に書きました厚生労働省に請求する保険の金額には、消炎鎮痛と運動療法という2つの請求の仕方があります。
消炎鎮痛と運動療法の2つを行えば、2つ請求できるのではなく、あくまでどちらか1つになります。
運動療法の方が請求できる金額が多いため、運動療法を行えば、運動療法で保険の請求をします。
ですから、運動療法をした方が、病院の収益になるのですが、先ほど書きました通り、運動療法を一日に行える時間は制限されているため、すべての患者さんに運動療法を行うことはできません。
「私はマッサージとかはしてもらえないのですか?」
そのように患者さんから聞かれることがあります。
もし、整形外科のリハビリテーションに行ったとき、他の人は個別にリハビリテーションを行う運動療法をしているのに、自分だけ温めたり、牽引をしたりするなどの物理療法しかしなかったら、皆さんもそう思われるかもしれません。
なぜ運動療法をする人としない人がいるのでしょうか?
理学療法士は、医師の指示のもとリハビリテーションを行います。
医師の指示がなければリハビリテーションは行えません。
つまり、医師が運動療法をするのか、物理療法などの消炎鎮痛を行うのか判断しています。
ただ、その判断を理学療法士に委ねられている部分もありますので、医師から消炎鎮痛の指示が出ていても、運動療法が必要と判断すれば、医師から運動療法の指示をして頂きます。
では、理学療法士が判断する運動療法が必要な患者さんとはどんな患者さんなのでしょうか。
あくまで、これから書くことは私個人の見解であるため、一般的に理学療法士がその見解で判断しているものではありません。
誤解を招かないように先にお伝えをしておきます。
私が、運動療法を行うか行わないかを判断している基準は、同じ痛みでも、その痛みによって著しく日常生活が行えなくなっているかいないかで判断をしています。
リハビリテーションの目的は、日常生活を送れるようにすることです。
痛みで着替えができない、靴が履けない、歩けない、階段が昇れない、そういった日常生活に支障をきたす症状が強く見られるかどうかが大切になります。
痛みを無くすことが目的ではなく、痛みがあっても日常生活が送れるようにするのがリハビリテーションです。
もちろん痛みを無くすためのリハビリテーションを行いますが、あくまで痛みが無くなるまで行うことがリハビリテーションの目的ではありません。
そこが整骨院と整形外科の大きな違いになります。
整骨院の目的は痛みをとることです。
痛みが取れれば当然日常生活は送れるようになります。
ただ痛みが取れなくても日常生活は送れるようにできます。
そのため、私は痛みがあるけど日常生活になんら支障がないのであれば、痛みを緩和する対症療法を行って頂くように説明をしています。
対症療法というのは、整骨院で行っている治療です。
整形外科でなくても行える治療です。
ただ、整形外科に置いてある物理療法の機器は大変高価なものです。
一個人の整骨院では用意できない機器もあります。
それらの機器を使えるか使えないかでは対症療法の効果に違いがあります。
ですから、整形外科で行う物理療法もそれなりの効果があります。
痛みの性質に応じた物理療法の機器がきちんと揃っている整形外科病院もありますので、運動療法を行わずとも痛みを無くすことは可能です。
ただ物理療法の機器を使いこなせるかどうかは、理学療法士の能力になりますので、きちんと使いこなせる理学療法士を探すことも重要です。
私が働いている病院は、痛みを取るための物理療法の機器が少ないため、自ずと個別の運動療法を行うことが多いですが、それでも痛みが改善しない場合は、その方に必要な物理療法が行える病院の受診を勧めるようにしています。
今のところ、そこまでしなくても済んでいます。
そのように選択肢の幅があることも整骨院にはない利点かと思います。
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