COPDに代表される慢性呼吸器疾患の患者さんの理学療法についてここでは書いて行きたいと思います。
俗に呼吸リハという名前で言われることが多く、看護師や理学療法士などが取得できる呼吸療法認定士という資格も存在し、呼吸リハを目指す療法士や、自分の価値を高めるために呼吸療法認定士を取得する方がいます。
必要な講習を受け、試験に受かれば資格が取れるというものなので比較的取得しやすいからです。
つまり、資格を持っているからといって必ずしも呼吸器疾患の患者さんに精通しているまたは、呼吸器疾患の患者さんに多く関わって来たわけではないという方もいるということです。
ただ、同じような資格でも、心臓リハビリテーション指導士という資格がありますが、こちらはある一定の臨床経験が必要なため、呼吸療法士の資格より取得が困難です。
そのため、心臓リハビリテーション指導士という資格を取得する方は少なく、心臓リハビリテーションをして行きたいと強く思う方しか取得しない資格になるかと思います。
同じ理学療法士の中でも、呼吸リハというとただパルスオキシメーターで酸素飽和度に注意しながら離床をすすめ、着替えたり、お風呂に入ったり、歩いたり階段を上ったり日常生活ができるようになれば良いという認識でいる方がいます。
間違えではないと思いますが、本当にそれで良いのでしょうか?
そういう認識でいる方達は、患者さんが急性増悪した症状に苦しんでいるのに起きないと「筋力が落ちちゃうよ」、「筋力が落ちるともっと苦しくなっちゃうよ」、「廃用が進んで歩けなくなっちゃうよ」といって患者さんを無理に動かそうとします。
もしあなたが息が苦しくて動けなくなっているのに「動いて下さい」「医者からは動いて良いと言われます」「酸素飽和濃度は問題ないから動いても大丈夫です。苦しくないはずです」となかば強制されたらどうでしょうか。
動かないから余計苦しくなる、動けば筋力が戻り苦しさから解放されると認識している理学療法士がいます。
本当に苦しいのを我慢して動けば苦しくなくなるのでしょうか?
動くと苦しさがますと患者さんは認識しています。
「動かない」のではなくて「動けない」のです。
何故か?苦しいからです。
だから、苦しさを取り除くことが一番大切なのです。
動いても苦しくないんですよと認識してもらうことです。
それでは具体的に苦しさを取り除くために何ができるでしょうか
できることは人それぞれだと思います。
以下は呼吸苦を改善していくための方法です。まずは何が必要かできることから初めてみて下さい。
姿勢
安楽肢位とも言いますが、まずは患者さんが苦しくない姿勢を作って下さい。
背臥位になると胸が圧迫されて苦しいと感じる方もいるかと思います。
両方の膝の下にクッションをいれ腹部を緩めたら、苦しくなくなるかもしれません。
右側を下にしたら苦しいと感じる方もいるかと思います。
左側を下にしたら苦しくないかもしれません。
クッションを足の間に挟んだら苦しくないかもしれません。
クッションを抱きかかえたら苦しくないかもしれません。
まずは安静にできる姿勢を作ってあげることから初めて見てください。
だからといって無理に動かす必要はありません。
基本的には患者さんはベッド上では一番自分が楽な姿勢でいるはずです。
リラクゼーション
呼吸が苦しい患者さんの多くは浅く速い呼吸をしています。
呼吸数や頸部筋の怒張などで評価をしますが、ここでは評価は省きます。
なぜか評価は大切ですが、何をするかが一番大切だと思うからです。
浅く速い呼吸をすることは頸や肩の呼吸補助筋を用いた呼吸になっています。
そのため、頸や肩の呼吸補助筋が硬くなり疲労しやすい状態になっています。
また、COPD患者さんは肺が過膨張しており、呼吸補助筋の筋の長さ-張力関係が悪化しているため、肩甲帯の筋活動が亢進しています。
リラクゼーションをすることで硬くなっている筋の筋疲労を取り除き、肩甲帯の筋活動を抑制することで換気のアップをはかります。
もっともリラクゼーションとして取り入れられる方法はマッサージです。
硬くなっている筋を伸張させるストレッチをする方もいると思います。
温熱療法などで温めたらリラックスできるかもしれません。
患者さんがリラックスできるために一番自分ができることは何か考えて選択して頂ければと思います。
呼吸介助
リラクゼーションの方法として扱われますが、ある程度の技術が必要になります。
技術を熟練させることは大切ですが、簡単にできる介助方法もあります。
それは無理に呼吸を介助しようとするのではなく、患者さんの肺の動き、つまり胸郭の動きに合わせて一緒に動かしてあげます。
あくまで胸郭の動きに合わせて一緒に動きを合わせるだけです。
あくまで補助をする、アシストを行う程度です。
無理に息を吐かせたり、息を吸わせたりする必要はありません。
胸郭を圧迫して息を吐かせる必要もありません。
まずは、呼吸にあわせてあげ、呼吸が楽になるのを待ちます。
介助をされるのも苦しくて嫌だという方もいるかもしれません。
そしたら、擦ってあげるのはどうでしょうか。
苦しいと感じているところをただ擦る、それだけで患者さんが楽になるのであればまずは擦ることから初めて下さい。
足が痛いという方がいたとします。
擦れば痛みが治まるようでしたら擦ってあげれば良いと思います。
マッサージや運動はそこでは必要ありません。
そして自分という理学療法士をまずは受け入れてもらうことから初める必要があるかもしれません。
呼吸が少し楽になってきたら、ほんの少し呼気の時間を延長するように胸郭を圧迫してみて下さい。
介助を行う姿勢は安楽な姿勢で行います。
口すぼめ呼吸
安定期COPDではエビデンスの得られている呼吸法になります。
吸気と呼気の比を1:3~5の割合で呼吸をして頂きます。
1回吸って3回吐くといった感じです。
回数を強制するものではありません。
あくまで比率ですので、患者さんが一番楽になる呼気の回数あるいは呼気の長さにして下さい。
まず安楽肢位で口すぼめ呼吸を行い呼吸方法に慣らします。
運動療法
リラクゼーションを図り、苦しさがなくなってきたら運動療法を行います。
余分な体の力を使わないためにまずは臥位で運動を行います。
特に筋肉量がもっとも多く筋力低下を引き起こしている下肢の筋肉を中心に運動をしていきます。
また上肢の運動は呼吸を抑制することにつながり、呼吸困難感を感じる方もいられるため、運動をしても苦しくないという認識をもってもらうためにも下肢から
行っていくのが良いと思います。
臥位での運動
十分な下肢の運動を行うためには背臥位になって頂くことが必要になるかと思いますが、無理にとらせる必要はないかと思います。
側臥位が楽なのであれば側臥位で苦しまずにできる運動から初めてみて下さい。
側臥位でも運動を続けることで運動の耐容能が変わり、動けるようになるかもしれません。
また同じ背臥位でもギャッジアップしていれば苦しくないかもしれません。
苦しくない姿勢で行い、運動をしても体を動かしても苦しくないという認識を持ってもらう事が大切です。
そして、運動を行う時に合わせて口すぼめ呼吸を行います。
息を吐いている間に運動を行い、呼吸と運動を同調させていきます。
運動を行う負荷量は時間を大切にすることかと思います。
運動時間を長くすることで身体活動を長く行えるようにしていくためです。
そして下肢の筋肉の中でも身体全体でも最大の筋肉である大腿四頭筋を中心に筋力訓練を行います。
最大の筋肉ということは一番エネルギーを必要とする筋肉であり、一番活動量を支えるために必要な筋肉だからです。
まずは自重運動から行い徐々に重錘やセラバンドを利用して負荷量を増やして行きます。
呼吸苦を感じないことが大切ですので、呼吸苦を感じない回数やセット数を負荷量として個々に合わせます。
ただ休息も入れた全体の運動時間を長くできるようにしていきます。
つまり、10分から20分、20分から30分、30分から40分とリハビリの中でも運動時間を長くしていきます。
下肢の運動に合わせて上肢の運動を加えていきます。
運動時間を長くすることがまずは目的ですので握力の運動から初めても良いかもしれません
そして肘、肩の運動と動きが大きくなる運動を行っていきます。
上肢の運動を行う前に大切なことがあります。
上肢の運動は胸郭の動きや肩甲帯の動きを伴います。
つまり筋が硬くなっていることで動きつまり可動域が悪くなっている方がいます。
それは手指や手関節、前腕にも言えることです。
きちんと運動ができる状態なのか確認をして下さい。
座位・立位での運動
安静位での運動に合わせて行えるようであれば、座位での運動も行います。
足関節の背屈や底屈運動など時間を設定して少しでも長く運動が行えるようにしていきます。
また、患者さんによっては立位での運動も合わせて行います。
横や前後などの重心移動が連続になったり、大きくなる方が活動量が増えるため、重心移動のなかでも上下の移動が活動量が少ないため、カーフレイズから始めると良いかと思います。
カーフレイズは下腿三頭筋を鍛える運動であり、下肢の末梢循環を改善するためにも必要な筋力であり、筋のポンプ作用を改善することで、心負荷を軽減することもできます。
動作を伴った運動
そして、運動耐容能がついてくれば、動作時の呼吸苦も軽減されてきますので、動作に合わせた口すぼめ呼吸を行います。
息を吐きながら起きたり、立ったりを行います。
人によって起きるのが辛い方もいるかと思います。
何故か?起座呼吸というものがありますが、寝ているよりも座っている方が楽な患者さんもいるからです。
立ち上がりも呼吸苦を感じないように座面の高さを調整して活動量をコントロールします。
最後に歩行と合わせて行っていきます。
息を吐いている間に歩き、立ち止まって息を吸います。
慢性呼吸器疾患の患者さんの動作時の問題点は、苦しいて動作を早く済ませたいと思うことです。
起き上がりにしても立ち上がりにしても歩行にしても、髪を洗うにしても、歯磨きをするにしても短い間に急いで行うことです。
ゆっくり休息を入れながら動作を行うと呼吸苦が感じなくなるということを実感して頂き、それを習慣に変えていきます。
休息をいれながら動作をゆっくり行えば苦しくないということを繰り返し繰り返し行っていきます。
どこまでできるかは個々によってことなります。
個々の状態に応じてプログラムを立てます。
臥位での筋力訓練で終わる人、座位までの筋力訓練で終わる人、立ち上がりの運動まで行える人、歩行まで行える人、さらに進んで階段まで一度にできる人できるかできないかはその方個々の運動耐容能によって違います。
運動の耐容能の目安として、酸素飽和濃度や心拍数があります。
一時的に酸素飽和濃度が落ちても休息すればすぐに回復する人、時間をおいても中々回復しない人、酸素飽和度は維持できていても心拍数が上がる人、COPDの患者さんお呼吸苦を規定する因子は色々あります。
その方の状態に合わせて、無理のない運動を継続する必要があります。
あくまで継続です。無理にリハビリを進めて、体調が悪くなればまた振り出しです。
少しずつ少しずつ経過を見ながらリハビリを進めて行きます。
エルゴメーター
最後に自転車エルゴメーターを行います。
先に書いたように運動をする時間が大切です。
そして運動の負荷量は重心移動が増えれば増えるほど増します。
重心移動を伴わず、長い時間運動を行う方法として自転車エルゴメーターを最良の方法です。
負荷量も回転する重さを増やせば増えますし、重さだけではなく回転するスピードでもコントロールできます。
漕ぐという同じ動作の繰り返しであるため、呼吸を意識しやすく長い時間呼吸と同調させて運動を行うことができます。
歩行も大切ですが移動があるため、呼吸だけに意識を向けることは難しいです。
COPDの予後を決定する因子として身体活動量があります。
身体活動量が多ければ多いほど予後は良いとされています。
心不全などの循環器疾患も同様で、リハビリテーションの目標は運動耐容能の改善です。
つまり運動耐容能を改善するためには、運動をすることに他なりません。
起きること、立つこと、歩くことが目的ではありません。
起きたり、立ったり、歩いたりするために運動が必要なのです。
整形外科疾患も同じです。
姿勢が痛みを作る、痛みを出す姿勢が悪い、つまり痛みの原因はマルアライメントにあるとマッサージやストレッチをして体のゆがみを治す。
プランクに代表されるような静的な姿勢を保持する筋力訓練を推奨し、youtubeなどSNSを利用して発信します。
吐き違いないで欲しいのはあくまで運動とは身体を自ら動かすことです。
姿勢を保持することが運動ではありません。
運動療法の専門家である理学療法士ですらそれらをSNSで推奨をする。
プランクなどのようなヨガを中心とした運動あるいはピラティスなどの運動が悪いというのではなく、あくまでしないといけないことは身体を動かすことです。
腹筋を鍛えたければまずは腹筋運動をする。
背筋を鍛えたければ背筋運動をする。
下肢の筋力を鍛えたければ重錘などの負荷を利用した筋力訓練を行う。
スクワットなどの自重負荷運動がすべてではありません。
スクワットは簡単にできる運動ですよと広めることで偏った知識を植え付けている気がします。
真摯に基本に忠実に運動を行うそれが大切です。
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