動作を改善するために行うDirectionアプローチの運動は基本的に5つの運動だけです。
5つの運動ですべてが良くなるというわけではありませんが、基本的に物体に加わる方向は前後、左右、回旋の組み合わせですから、運動もその数だけで十分なはずです。
基本的な運動の考え方がわかれば、応用した運動を考えるのも難しくはないかと思います。
負荷やテンポ、スピードなどで変化を加えることも可能です。
リハビリテーションに従事している方であれば、運動のバリエーションが増え、その方自身の理学療法の確立ができると思います。
その5つの運動はとてもシンプルで、セラピストならば良く行う運動も多いかと思います。
高齢の方でも地域の体操や朝のNHK体操などでも行ったことがある運動ばかりです。
良く行う運動でも考え方次第で、視点が変わることを感じて頂けるのではないかと思います。
理学療法で大切なのは「何を行うか」ではなく、「何を考えるか」です。
Directionアプローチの運動は背臥位(仰向け)が基本です。
何故か、それは姿勢を安定させることと体幹の代償を抑制するためです。
座位や立位で運動を行う利点は、スペースが狭く行えることです。
一度に多くの方が集まって運動をすることができます。
ですが、欠点は、姿勢を安定させることができないことで姿勢の代償が入りやすくなることです。
Directionアプローチの目的はあくまで運動の方向です。
姿勢が安定しなければ、運動を正しい方向に導くことができなくなってしまいます。
Directionアプローチの運動は、方向の再学習が目的です。
方向の再学習を行いながら、筋力の強化をはかります。
自宅でも今すぐにできる運動ばかりです。
時間がないという方、信じられないという方は、まず1つ目の運動と5つ目の運動だけでも行って見てください。
行ってみて簡単に効果がでることを実感してみてください。
1:股関節屈曲・伸展運動(前後)
- いわゆる足踏みです。
- 両方の膝を最大限曲げ膝を立てます。
- そのまま片方の膝を胸まで最大限足の力だけで抱えていきます。
- 最大限、胸まで抱えた位置からもとの足の位置まで降ろしていきます。
注意点:降ろして行くときに、踵ができる
だけお尻に近づくように降ろして
行きます。
膝関節をできるだけ曲げたまま降
ろすということです。 - 左右交互に2分程度行います。
特に時間についてエビデンスはありません。
ただ短すぎず長すぎないという時間の感覚です。
運動習慣のない方は、時間の感覚が乏しいので2分が長く感じます。
2:股関節外転・内転運動(左右)
- 足を伸ばしたまま開いたり閉じたりする運動です。
- 片側の股関節を最大限外転させます。
踵を外に押し出して行くように開きます。
注意点:膝関節が屈曲しない程度に開きます。
つま先を真上にあるいは少し内側にし
て行います。
足先に注意しないと足先は自然と外向きになります。膝関節も曲がりやすくなります。 - 片側を10回、反対側を10回、両足を同時に10回あわせて30回行います。
注意点を守りながらゆっくり行えばおおよそ2分程度の運動になるかと思います。
3:股関節外旋・内旋の運動(回旋)
股関節伸展して行う場合
股関節の外旋運動
- 足先にビニール袋などをかぶせます
- 足を伸ばしたまま、つま先を立てて外に開きます
- 外に開いている時間を5秒ほどキープします。
ビニール袋が引っ張られるのを感じて下さい。
やぶれるように頑張って下さい。 - 1回5秒を休みを入れながら10回行って下さい。
股関節の内旋運動
- 膝の間にボールなどを挟みます。
- 挟んだボールを両方の膝で押しつぶすように内側に力を入れます。
- 力を入れた状態を5秒ほどキープして下さい。
- 1回5秒を休みを入れながら10回行って下さい。
股関節屈曲して行う場合
股関節の外旋運動
- 仰向けのまま平泳ぎをするような運動です。
- 軽く膝を立てた状態で、足を横に開きます。
- その足を開いた状態をキープしながら、股関節を屈曲していきます。
- 膝を開いた状態で股関節を最大限屈曲したら、そのまま足を開いた状態をできるだけキープしながら、足を元の位置に戻していきます。
- 膝の位置に注意しながら、ゆっくり10回行って下さい。
やりずらい方は、膝を外へ開いた状態で、踵をお尻へ近づけるように両膝を曲げる運動を行って見て下さい。
股関節の内旋運動
- 最大限膝関節を屈曲した状態で膝を立てます。
- 膝の間にボールなどを挟み、そのままボールを押しつぶすように力を入れます。
- 5秒間力を入れたら休み、あわせて10回行って下さい。
ボールではなく、どの家庭にもある枕でも大丈夫です。
4:骨盤の回旋運動(前後+左右)
股関節を屈曲して行う場合
- 腰をひねるよう運動です。
- 両手を開きしっかり身体を支えます
- 両方の膝を最大限曲げて膝立ちになります。
- そのまま両方の手で床を支えながら、両方の膝を左右どちらか一方に倒していきます。
- そして次に、反対側に膝を倒していきます。
注意点:支えている両方の手が床から離れないよう
にします。
ポイントは腰がねじれているかです。
股関節を伸展して行う場合
- 腰を反らすような運動です。
- 両手を軽く広げてしっかり身体を支えます。
- 足を伸ばした状態で足首のあたりで足を組みます。
どちらかの足を足首にのせた方が分かりやすいを思います。 - 足を組んだまま、上に乗せた方へ腰をひねります。
右足を上に組んだら左へ腰をひねります。
左足を上に組んだら右へ腰をひねります。
注意点:膝を立てた場合は腰のひねりを意識しますが
膝を伸ばした状態は腰が反れるような感じに
なります。腰を伸ばす感じです。 - 片側を10回、反対側を10回あわせて20回行ってください。
しっかり腰が反れているか確認しながらゆっくり行って下さい。
5:脊柱起立筋群の運動
- いわゆるバンザイです。
- 重りなどをつけた棒を用意します。
重りがなければ枕で大丈夫です。
枕がなければただの棒でいいです。 - 肘関節を伸ばしたまま、最大限肩関節を屈曲していきます。
- 肩の痛みに注意しながら10回行って下さい。
注意点:肘を曲げないようにバンザイをして下さい。
肩の痛みがでない範囲で行います。
セラピストがリハビリで行う際の注意点
運動の方法は変わりないのですが、骨盤回旋運動時のリハビリで行う際に注意して頂きたい点がありますのでセラピスト向けに紹介します。
骨盤回旋運動(股関節を屈曲して行う場合)の注意点
骨盤の回旋運動をリハビリで行う際、膝関節から徒手で抵抗を加えていくことが多いかと思います。
その際、回旋した方向にきちんと骨盤が回旋しているか観察する必要があります。
股関節が柔らかい患者さんは、股関節の外旋・内旋運動だけであたかも骨盤が回旋したかのように見せることができます。
それが腰痛の原因になります。
股関節で代償しようとする患者さんには加える抵抗を強くすることで、股関節の力だけでは押し切れなくなり、骨盤が回旋していきます。
足部を踏みかえて回旋するような動きをする患者さんも多くみられます。
これも代償ですので踏みかえないように注意します。
徒手抵抗が強すぎるかもしれません。
まずは、膝関節の間でボールを挟み、落とさないように骨盤を回旋する運動を行い、正しい運動を習熟させると良いかもしれません。
回旋運動は骨や関節にはストレスが強い運動になります。
骨や関節の変形に留意し、正しい方向ばかりに目を向けないよう、無理のない範囲で行って下さい。
骨盤回旋運動(股関節を伸展して行う場合)の注意点
この運動で良く観察される代償動作は、上部体幹を同側へ回旋することで骨盤の回旋を代償することです。
上部体幹の回旋を抑制するためには、両上肢、特に回旋と反対側の上肢でしっかりとベッドや床を押すように意識してもらうことです。
上肢で押すことは代償ではないかと言われる方もいるかと思いますが、それは違います。
あくまで、正しい方向に運動を導くためのものなので、代償とは区別をします。
例えば、歩行をする際の上肢と下肢の位置関係を想像してみて下さい。
右足を振り出すときの右上肢の位置はどこにあるでしょうか。
右上肢は後方にあります。
つまり、歩行時の運動の向きと同じ方向になるので、動作を改善するという運動の目的では正しい方向に運動を導いていることになります。
腰椎を伸展する運動になりますので、骨盤の後傾偏位が強い方や腰椎とくに第4、5腰椎の変形が強い方などにはご自身で無理のない範囲で行って下さい。
しっかり動かすことが目的ではありません。
運動方向の再学習ができれば十分です。
コメント
[…] 側方リーチ訓練だけでも起き上がりはできるようになりますが、Directionアプローチで行う運動の中の脊柱起立筋群の運動と股関節の外転運動、股関節の外旋運動を準備運動および運動方向の再学習として行って頂ければと思います。(Directionアプローチで行う運動) […]
[…] そのため、私が患者さんに行って頂く運動プログラムは、(A)脊柱起立筋群の運動と(B)股関節の屈曲・伸展運動になります。(Directionアプローチで行う運動) […]
[…] 私が基本的に勧めている運動があります。介護予防にもなりますので、介護が必要な方はもちろん、ご家族の中で、介護が必要になりそうな方がいらっしゃる場合など、簡単にご自宅でできる運動ばかりですので行って頂ければと思います。(Directionアプローチで行う運動)その中で、脊柱起立筋群の運動と股関節の屈曲・伸展運動、骨盤の回旋運動は大切なので行って頂くと効果を実感して頂けるかと思います。 […]
[…] 前方へ動かす、つまり骨盤を前傾し体幹を伸展するという事は、若い人にとっては問題のない動作ですが、筋力が低下していたり、腰椎や仙骨などの骨の変形が著しい方にとっては難しい動作になります。そのような方でも行える運動です。(Directionアプローチで行う運動) […]