立ち上がりができない患者さんに対してリハビリのプログラムを立案すると、膝関節の伸展運動を選択される方が多く見受けられます。
しかし、方向学的に捉えた場合、膝関節の伸展運動は選択しません。
では、方向学的に立ち上がりを捉えた場合、考えるべき運動の方向は何かというと、前上方の方向です。
このことはおそらく臨床でも良く知られている立ち上がり動作の方向だと思います。
そのため、患者さんに「斜め前に向かって立ち上がりましょう」と動作指導を行う場面を目にします。
ですが、動作指導はあくまで指導で、運動プログラムではありません。
それでは、どんな運動をプログラム立案すれば良いのでしょうか?
その答えは、前上方の方向をベクトルとして分解すれば解ります。
前上方のベクトルを分解した場合、分解できる方向は、座面に対して上方向(A)と前方向(B)になります。
そして、身体に対してそれらの方向を生み出す運動は(A)体幹の伸展、(B)股関節の屈曲になりす。
(B)が体幹の屈曲ではない事は、車椅子の足漕ぎについてお話したのと同様です。(方向学的に捉えるとは)
A:上方(体幹の伸展)
B:前方(股関節の屈曲)
A+B:前上方
そのため、私が患者さんに行って頂く運動プログラムは、(A)脊柱起立筋群の運動と(B)股関節の屈曲・伸展運動になります。(Directionアプローチで行う運動)
それだけでもある一定の効果は得られますが、さらに実際の動作に近いかたちで運動を行うことも大切なため、座位での運動も行います。
また、入院患者さんの場合、傾眠により臥位では運動の支持が入りにくい方もいるため、座位での運動を紹介して置きます。
股関節屈曲の運動(座位)
前方に椅子などを置き、そこに向かって手を伸ばします。
両手でできない患者さんは、片方ずつ交互に伸ばします。
徐々に椅子を離していき、前方にリーチできる距離を伸ばします。
10回程度行います。
体幹の伸展運動(座位)
棒などを把持し上肢を最大限挙上します。
背もたれがないとできない患者さんには背もたれのある椅子で行って下さい。
両上肢でできない患者さんには片手ずつ交互に行って下さい。
10回程度行います。
平行棒内で行う場合(座位)
患者さんによっては前方にリーチしようとすると怖くてできないという方もいます。
その場合は平行棒を利用すると恐怖感がなく行えます。
杖など長めの棒を把持して棒を押すようにリーチします。
また、手元をしっかり見るように促すことでヘッドアップし、体幹の伸展も併せて促通できます。
杖が軽いと押しにくい方もいるので、重りである程度重さを加えてあげると行いやすいです。
10回程度行います。
体幹の伸展運動も挙上距離が短くなり行いやすくなりますので、そのまま併せて運動をします。
じつは、前上方の方向だけではなく、もう一つ考えておきたい方向があります。
それは反力です。
反力とは、物が動く際に、動く方向とは反対の方向に力が作用したあと、物が動くことであり、例えば歩き出すときには、少し後方への力が働いてから前に動き出すというものです。
そのため、立ち上がりについても反力を捉える必要があり、それは前上方の反対である後下方になります。
前上方と同様に後下方のベクトル(a+b)を分解すると、座面に対して、後方向(a)と下方向(b)に分解することができます。
そして、それらの方向に対する身体の運動は、(a)膝関節の屈曲と(b)股関節の伸展になります。
a:後方(膝関節の屈曲)
b:下方(股関節の伸展)
a+b:後下方
そこで、私が行って頂く運動プログラムの選択は、(a)(b)ともに股関節の屈曲・伸展運動になります。
ただし、股関節の屈曲・伸展をただ自動運動で繰り返すだけでは、正しい運動方向にならないため、股関節伸展を行う際に徒手で抵抗を加えます。
抵抗を加えることで、運動の方向を股関節の伸展と膝関節の屈曲に誘導します。
股関節の伸展抵抗運動
股関節を最大限屈曲した位置から、膝下あたりで徒手抵抗を加えます。
そして、踵が臀部に近づくように足を降ろします。
抵抗は足底が接地するまで加えます。
前上方の運動同様、後下方の運動についても座位での運動を紹介しておきます。
股関節伸展の運動(座位)
軽く膝を曲げます。
そして、足底にボールなどの弾力のあるものを置きます。
踵でボールを押しつぶすように力を入れます。
左10回 右10回 片方ずつ行って下さい。
膝関節の屈曲運動(座位)
足首に重りをつけます。
重りがなければ、なくても方向の学習なので大丈夫です。
膝関節をそのまま屈曲します。
左右交互に10回程度行います。
反力に対するアプローチは、円背があり体幹の伸展が困難な方や股関節や肩関節に可動域制限がある方など、座面より上でのアプローチが運動を正しい方向へ誘導できない方には有効な手段かと思います。
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