ここで言う首の痛みとは、肩が凝るとつい手を当てる部分(首の付け根辺り)があるかと思いますが、
その場所の痛みや頸椎周囲の痛みのことです。
肩関節周囲炎など、俗にいう五十肩とは区別するためにそのようにします。
では、首の痛みを方向学的に捉えるとどうなるか。
図のようになります。
A:額の挙上
B:頸部にかかる力の方向
C:頸椎の伸展
頸部が伸展することで顎があがり、顎があがることで頸部は前方向へ引き出されます。
さらに上肢の重みにより、下方向へ力が加わります。
A:上肢の重さによる前下方への力の方向
頸部の痛みを引き起こす原因はこの二つの方向になります。
肩関節のアライメントはもともと軽度前方向にあるため(肩甲骨と胸郭の形状)、頸部の前方への方向とあわせて、上部体幹、肩甲帯周囲には後方への力が加わります。
そして、ただでさえ胸椎の生理的前弯があるため、後方への力は増強されます。
A:胸椎の生理的前弯にともなう方向
B:肩甲骨の前傾にともなう方向
C:頸部の伸展にともなう方向
首の痛みに作用する二つの方向を改善するために何をすれば良いか。
考える必要はありません。
二つの向きの逆を行えば良いだけです。
逆向きの方向とは、頸部の屈曲(胸鎖乳突筋)と肩甲骨の挙上(僧帽筋上部)になります。
頸部の屈曲運動
背臥位で行います。
たいていの方は頭部の形で、上の図のようにやや顎があがり(a)、頸部がやや伸展(b)しているかと思います。
枕を使用するとやりやすいかと思います。
喉ぼとけに向かって顎を引きます(a)。
頸部が伸ばされる(b)のを感じて下さい。
頭部が枕から離れないように注意します。
運動の方向が変わってしまいます。
肩甲骨の挙上運動
シュラッグと言われる僧帽筋を鍛える運動です。
背臥位で行います。
肩甲骨が生理的に軽度前方にあるため、肩甲骨を内側によせた状態、少し胸を張った状態で行います。
肩甲骨が上に動くのを感じながら、肩をすくめるように耳に近づけていきます。
注意点:肩甲骨が硬い方は、運動の代償として、肘を屈曲したり、肩を外転させて行う方がいますので、肘はなるべく伸ばしています。
顎があがるという事は頸部が屈曲しているように見えますが、実は頸椎は伸展しています。
見かけに惑わされない事が重要です。
頸部の痛み、肩こりというものは、胸鎖乳突筋に代表される前頸部の筋力(喉頭周囲の筋群)と上肢の重みを支える僧帽筋の筋力低下が引き起こしています。
痛みは、インナーマッスルの筋力低下に伴い、アウターマッスルがより主体的に動くことで痛みが引き起こされるとおっしゃる方もいますが、高齢者で重要なのは、大きな筋肉にきちんと仕事をさせることです。
その理由は、筋力は断面積に比例するからです。
インナーマッスルとアウターマッスルでは断面積に明らかな違いがあります。
インナーマッスルが大切ではないという事ではありません。
インナーマッスルに起因する痛みも当然あります。
それもアウターマッスルの筋力が低下しているから、インナーマッスルに負担がかかるのです。
スポーツ選手などのハイパフォーマンスを発揮する必要がある方は、アウターマッスルの筋力訓練は十分にしています。
よりハイパフォーマンスを求める必要性から、インナーマッスルを重要視するのです。
ジュニアレベルの運動選手にトレーニングを指導する際、まず行う事は相対的な筋力アップです。
インナーマッスルばかり鍛えては、総体的な筋力アップは望めません。
高齢者や疾患を抱えている方は相対的な筋力低下を引き起こしています。
リハビリテーションの世界でも種々のトレーニングがありますが、重りをつけて運動するという従来の運動はやはりリハビリテーションの基本です。
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